2024/1/28 第44回 館山若潮マラソン



『さぁ、ここが勝負どころだ。』


さて、今年2度目のロードレースの舞台は、千葉県の房総半島南部に位置する館山市。
南房総は好きな地域のため旅で何度も訪れたことは有るのだが、走るのは今回が初めてだ。
もしかしたらジョグすらしたことは無いかもしれない。
自宅からは距離がある地域のため、今回は前泊することにした。


予約をしたのは館山市南西部、房総フラワーライン沿いに位置する館山リゾートホテル。
以前も宿泊したことが有り、この度も同様に連棟型のコテージに宿泊することにした。
こちらのホテルでは温泉も備えているため、比較的規模の大きいロードレースの前日は温泉に入ってリラックスしている自分には丁度良い選択と言える。


1月初旬の杉並ロードレースからは練習も順調にこなしていた。
3週間という長いとは言えない期間だったが、強化を兼ねつつ上手く調整できていたと思う。
風邪のような症状を自覚した期間も少し有ったが、概ね問題の無い体調だった。
ちなみに今回の目標は10km・40代男子部門で3位以内に入りメダルを頂戴すること。
総合では10位以内、タイムは34:15(3:26/km)前後が目安といったところだろう。
過去の大会結果と現時点での自分の走力から考えれば、実現可能と見られるターゲットだった。


前日の土曜日になり、朝に地元で軽くジョグをしてから出発。
東京都方面から東京湾アクアラインを通過して木更津金田ICで一般道へと至った。
そこから館山市迄は一般道で向かう。
途中、鋸南町に在る道の駅 保田小学校などに立ち寄り、南房総市へと入った。
ここ迄来れば、館山市は目と鼻の先だ。
そのまま館山の市街地から明日のコースの下見も兼ねて鏡ヶ浦通りを南下し、館山リゾートホテルへと至った。


到着時間は16時前後と早かったためフロントも混雑していなかったので、スムーズにチェックインを済ませて部屋で少し休息取る。
その後、太陽が水平線へと還っていく少し前に散歩に出てみることにした。
晴天のため、西の空が淡い紫色からオレンジ色のグラデーションに染まる様が見て取れたので、本館の階段を上りコテージ棟と遠方の海を見下ろしてみた。
こちらがその写真だ。
ポケットのiPhone 13 Proで、1枚撮影をしてみた。


南欧の雰囲気を感じていただけるかと思う。
ちなみにコテージの名称もバルセロナなど、スペインの主要都市の名称を拝借して名付けられていた。


夕景を堪能した後は温泉へと向かい、身体を温めた。
朝に10km程のジョグをしていたので、その筋肉の疲れを取るためにマッサージをしながらゆっくりと湯に浸かる。
窓の向こうには暗くなっていく空が見え、夕焼けとはまた異なった趣があった。
暫くのんびりとしながら夕闇とも薄明とも喩えられる空を眺める。
このような忙しない日常から離れた時間は、何度経験しても飽きがこないものだ。


夕食は軽く済ませて早めに就寝し、8時間程の睡眠を取った後に5時30頃に起床。
レースの開始時刻は10時50分のため、この位の時間に起床しても十分遅くはない。
朝食付きプランで予約をしていたため、レストラン(バイキング形式)でバナナやおはぎ、カステラなど、糖質を主とした食べ物を軽めに頂き席を後にした。


ホテルのチェックアウトを済ませてから、館山市民運動場へと向かう。
そちらがスタート/ゴール地点であり、大会本部のある所謂レース会場だ。
交通規制のため市内は多少混雑していたが、無事に駐車場へと到着。
車を止めてから10分程歩くと、多くの出店で賑わうグラウンドへと辿り着いた。
既にフルマラソンはスタートしていたが、10kmの部に出走する選手達やファンランに出走するランナー達も多く集まってきており、会場内は沢山の人が行き交っていた。
スタート時間迄はあと30分位だろうか。
そろそろアップもしておくことにしよう。
そう言えば駐車場から会場への道路は車道通行止めになっていて、選手達がアップをしている姿も多数見掛けたため、自分もこちらで軽くアップをすることにした。


気温は10℃前後だろうか、太陽は雲に隠れたり時に顔を出したりと、コンディションはまずまず良いようだ。
海沿いとなるため風が気になるところだが、強風ではなさそうなので寒さはアームウォーマーで或る程度凌げるだろう。
身体もそこそこ温まってきたので、集合地点へと向かう。
10kmの部だけでも1,000人規模の選手が出場するだけあって、スタート地点は申告タイムで幾つかのブロックに分けられていた。
自分は最もスタートに近いAブロックだったが、実際に行ってみると割合とスペースがあったので最前列に位置取ることにした。


スタート地点左前に目を向けると、オフィシャルのデジタル時計が設置してあった。
号砲が鳴り響く10時50分迄、あと数分だ。
いつもながらに緊張もしないし、いつもながらに心が躍る。
結果が出ても出なくても、それによって何らかの責任が発生することもないし、自分の生活が危うくなる可能性もない。
これが趣味で走っている、俗に言う市民ランナーの良いところだ。
(私は自分のことをシティランナーと呼称しているが、ほぼ同義として捉えている。)
食生活についても客観的に見てストイックな方だと思うし、練習も真剣に考えて集中しつつ取り組んではいるが、ことレースについては常に気楽に走っている。
(もちろん一生懸命走っていることは言うまでもない。)
故にナーバスになることはなく、逆にワクワクするのである。


周囲のざわつきが収まってくると同時にカウントダウンが始まった。

パーン!

乾いた銃声が空を貫く。
それと同時に一気に加速して先頭へと躍り出る。
目線の先には1台の千葉県警の白バイがあった。
勿論、若いランナーも多く出走するため自分がこのまま先頭で行くことは考え難いが、この感じならば部門3位以内、総合でも一桁順位は狙えそうだ。
スタート直後の館山大橋を抜けてる頃、後ろから加速して来るブルーのシングレットを着た1人のランナーが私を抜いて行った。
直後にもう2人、ブラックのシングレットおよびタンクトップを着用したランナー達が、先頭のランナーに付いて行くことを考えたのか、速いペースで横を抜けて行く。
早々に1番手から4番手に落ちたが、この辺りは想定内なので慌てることはない。
自分のリズムで、3:25/kmペースで押して行こう。


1km過ぎ辺りだっただろうか、若いランナーが2人程少し間隔を空けて私の後方から前方へと軽やかに駆けて行った。
うち1人はかなり若く、10代かもしれない。
自分のペースは落ちてはいないので、彼らが上げているのだろう。
圧倒的に速いペースでもないので付いて行くことはできたが、後半にも余力を残しておきたいため敢えて彼らを先行させ、後ろに付かない選択を取った。
2km, 3kmと過ぎて若干差が開いていったが、大きく開くこともなく数十メートル先には見えている状態が続いた。
ちなみに白バイは未だ遠方には見えるものの、かなり遠ざかっていたと思う。


沿道に目を向けると、沢山の地元の方や観光客と思しき方々が声援を送ってくれた。
軽井沢ハーフマラソンや諏訪湖マラソンにも匹敵する人数と声援の量かもしれない。
更に単独走となっているので、これらが自分に集中して非常に心地が良かった。
そのため、できる限り応えたいところだったのだが、毎回手を上げて応じている程の余裕もないし、この量だと手を上げ続けなくてはいけなくなってしまう。
そのため、時折大きな声援には片手を上げて応じ、残りは走りで応えることにして足を進めた。


鏡ヶ浦通りから北条海岸交差点を抜け、内房なぎさラインへ。
ペースも3分20秒台前半で安定しており、遠方には海上自衛隊の館山航空基地も見えてきた。
折返し地点(中間点)が近い。
順位はと言うと変わらず6番手だ。
後ろは全く見ていないが、追ってくる気配も無かった。
前の2人は未だ見えている。
航空基地前にはやや傾斜のある坂が下り坂があった。
折返した後はここが上りになるので、前のランナーが近かったらここで仕掛けて一気に抜いてしまうのも手だろう。
そんな即席のプランを考えながら自衛隊前の交差点を右折した。


坂を下り、少し曲がりくねった後に鏡ヶ浦付近の中間点が見えてくる。
自分が到達する前に白バイに先導された3人の選手が折り返してくる姿が見えたが、思っていたよりも差は広がっていないようだった。
差は20秒強だろうか。
30秒は無いような気がした。
更に自分の少し前にいた2人の若い選手が次々と折り返して行き、自分もUターンする。
時計を確認すると16:44(3:21/km)と、良いペースだ。
折り返してみるとやや遅れて他の選手が中間点を迎えようとしていたが、こちらも未だ余力はあるので彼らのことは気にしなくても良さそうだ。
直後は下り。
前を追うことにしよう。


折返し地点から数100m。
この間に下りを利用して前の2人と一気に差を詰めることに成功した。
と言うよりは、ペースを上げて前の2人のうちの後ろの1人に追い付いたと説明する方が、正確な表現となるだろう。
少し後ろで休んでいると、前方の背中越しにやや荒めの息遣いが聞こえてきた。

『さぁ、ここが勝負どころだ。』

心の中で呟くと同時に、6km手前の上り坂で一気にスピードを上げて2人まとめて抜き去る。
沿道からは、「はえーなぁ!」という声が耳に飛び込んできた。
実に爽快だ。
自分が考えるに当レースのハイライトは、このシーンで間違いはないだろう。
6km通過は3:21。
かなりのハイペースだったが、ここでスピードを落とさずに後続を突き放して戦意を喪失させた方が後々良いと思い、流石にきつくはなってきたがペースを保つことにした。


7km通過は3:19へと上がった。
後ろからは呼吸音どころか足音も人の気配も無くなっていた。
同時に前の選手の背中が段々と近付いてくる。
3人居た先頭集団から1人が遅れ始めていたのだ。
独り占めしていた沿道の声援や対向車線のランナー達からの声掛けの中には『前見えてるぞー!』と言う声もあったが、自分でも視界には捉えていながらも追い付けそうで追い付けないため、これには走りながらも苦笑いしてしまった。


8kmの表示が見え始める。
中間点からの2km弱を3分10秒台後半で押し続けたため、この辺りになるとかなり呼吸も荒くなってきていた。
ペースを落とさずに残りの距離を走り切ることは可能に思えたが、上げるとなると難しそうだ。
例え一時的に上げたとしても長くは持たないだろう。
3位のランナーとは数十メートルの差があったが、これが縮まりそうで縮まらず、広がりそうで広がらない。
中々にもどかしい時間だったが、同時に頭の中で計算もしていた。
仮にここで3位まで届いたらどうだろうか。
総合3位になると確かトロフィーが頂戴できるはずだが、メダルは銅メダルになる。
このまま行った場合は前の3人は総合1~3位になるため、自分は部門別では優勝となり金メダルが頂戴できる。
元々の目標はそちらだ。
故に、これ以上の負荷を掛けて身体のダメージを増幅させる(場合によっては怪我に繋がる可能性さえある)よりも、このままキープして部門優勝でも良いのではないか。
考慮の結果、今のペースは維持してできるかぎり前は追うものの、無理はせず順位をキープすることを優先する判断に至った。


イオンタウン館山を抜け、館山大橋が見えてくる。
3位のランナーとの差は相変わらず広がらないが、詰まりもしない。
残りの距離も短いため刺すことは既に諦めていたので、最後の沿道の声援を一身に受けて心地良さに包まれながら足を進める。
苦しくはあるものの、幸せで楽しいひと時が終わろうとしていた。
橋を渡り左折すると、視線の先にはゴールテープが飛び込んでくる。
その後ろには、15~20秒程度私よりも先に戦いを終えた総合3位の選手の姿があった。


前にも後ろにもランナーがいない最後の直線に入る。
サングラスを額に上げた。
いつもどおり両手も挙げておこう。


そのまま少し力を抜いてゴールラインを超えた。
未だ普通に喋れる程度の若干の余裕が呼吸器には残っていたが、身体を動かすという面では今日はこの辺りが精一杯だっただろう。
タイムは速報かつグロスタイムで33:46(3:23/km)。
パーソナルベストだったが、この位では走れるだろうとは想定していたので特に驚きはなかった。
前半が16:44だったので後半は17:02(3:24/km)と少し落ちてしまったが、5km過ぎから2km弱の区間を3分10秒台後半に上げていたことを考えると、終盤はよく粘って走れたと思う。


レースが終わり、総合3位に入った鎌田選手と少し話をさせていただいた。
若い選手だと思っていたが彼も40代であり、偶然にも昨年は今年の私と同じ総合4位に入ったとのことだった。
(ちなみに昨年は30代だったようなので、私よりも1つか2つ年齢は下だと思う。)
1位・2位は2,30代の若い選手であることは外観から分かったが、総合3位に40代の選手が入るのだから大したものだ。
もしかしたら、昨年は3位以内に入れなかったことで、悔しい想いをしたのかもしれない。
そんなことを考えると思わず彼の努力を称えたくなったし、心からおめでとうの言葉を贈りたいと思った。
(表彰式後の帰り際に実際に贈ったのだが。)


暫くの時を経て、同じく10kmに出走していた千葉県知事の熊谷氏や館山市長の森氏がゴールした後、会場裏手のステージにて表彰式が催された。
いずれもグロスタイムで、男子総合1位の奥村選手は32:52、同2位の山本選手は33:12、3位の鎌田選手は33:28だった。
1位と2位は最終的には20秒とそこそこの差がついたようだ。
自分も総合3位の鎌田選手とは18秒差が有ったが、総合5位の選手が34:40だったので後続とはほぼ1分の差をつけることができたし、何より40代の部門で優勝もできたため、十分に良い結果を残すことができたと言えると思う。
表彰式が終わり、金メダルおよび部門優勝の賞状を頂いた。
それがこちらだ。
(フィニッシャータオルの上に乗せて写真を撮ってみた。)


記念に会場で写真も撮影。


なお、以下は帰宅後に撮影した写真だが、入賞の副賞として特産品のお菓子も幾つか頂戴した。
(これがまた美味だったので、直ぐに食べてしまったことは言うまでもない。)


前回に引き続き目標を達成できたことは純粋に喜ばしいし、タイムとしても内容の面でも満足の行く走りができたと思う。
何より沿道の声援を受けて走れることに喜びを感じた。
この声掛けが、苦しくなってもペースを保てた要因の1つだったと言えるだろう。
そう考えると、こういった規模のレースを走ることそのものが、私にとっては幸せなことなのかもしれない。
そんなことを考えながら帰路に着いた。


途中、東京湾アクアラインの海ほたるPAに立ち寄った。
その頃合にはやや太陽が西に傾き始め、薄い雲も広がっていたため、南西の空の大部分が黄金色に染まりとても幻想的だった。
日常とは異なる風景を眺める。
これもまた、地元とは異なる場所で開催されるロードレースに出走する楽しみの1つだ。


さて、次のロードレースは2月中旬に開催される、第1回 石岡つくばねハーフマラソン。
5kmの部などもあるこちらの大会だが、ハーフマラソンと銘打っているレースなので、出走する部門はもちろんハーフマラソンだ。
(自分の場合は、大会名称がハーフマラソンだった場合はハーフマラソンの部に出走すると決めている。)
目標は、最低限40代男子部門で8位入賞圏内に入り、可能であれば3位以内に入ること。
東洋大学や国士舘大学の学生ランナー達も(恐らく招待選手として)出走するため、総合順位については目標も目安もない。
敢えて言うならば、総合では20~30位前後に入れれば合格点だろう。
まずは部門3位以内を目指して頑張りたいと思う。
タイムとしては、74分台±1分が1つの目安だ。


最後に、家族を始め今回も応援してくれた全ての人に感謝し、筆を置きたいと思う。

ありがとうございました。