
『こちらこそありがとう!君達も最高だよ!!』
日本の南の海上に梅雨前線が発生し、沖縄県が梅雨入りしてから1週間程経過した5月が終わる頃、山形県の東根市を訪れた。
今回の訪問の目的は、東根さくらんぼマラソン(大会の正式名称は、果樹王国ひがしねさくらんぼマラソンだが、昨年6月出走の北海道美瑛町のレースと同様に正式名称が長いため、本サイトでは上記の通りに表記)への出走。
24-25シーズンの最後を飾るロードレースとなる。
1つ前のレースである5月中旬に出場した、よこはま菜の花マラソン(青森県横浜町)と同様に、自宅からは遠方となる東北地方のため前日入りとし、まずは前泊地である山形県高畠町を目指すことにした。
レースの開催日は日曜日のため、出発は土曜日の朝。
夕方以降は身体を休めたいので高畠町への到着は15時過ぎを目処とすると、少なくとも午前中には福島県入りをしたい。
ということで、高速道路の渋滞を考慮して7時過ぎに自宅を出発。
しかし当初の想定とは裏腹に、雨天のためか渋滞などは全く発生せずに、2時間半弱で那須高原SAへと到着。
速い人ならばフルマラソンを走り切ってしまう位の時間だ。
サービスエリア小休憩を取り、更に1時間弱車を走らせて福島県の郡山市に入ったのは11時過ぎ。
ここで早めの昼食を取り、その後はのんびりと高畠町へ向けてアクセルを踏んだ。
空はどんよりと雲が掛かり、雨が降ったり止んだりの天気。
自宅から埼玉県を経て群馬県、栃木県、福島県、山形県と幾つもの県を渡ってきたが、空模様はどこでも同じようなもので、高速道路は元より一般道路でも土曜日にしては心無しか車が少ない。
予定通りに高畠町へは15時過ぎに到着したが、その頃には雨が強まり道路の左右所々に水溜りも出来ていた。
そういえば今朝方、山形県の人口が統計開始史上初めて100万人を割り込んだというニュースを耳にしたが、そんな情報も有ってか街並みも何処となく物寂しく感じられた。
そんなことを考えながらハンドルを切っていると、JR高畑駅が見えてくる。
宿泊先であるホテル・フォルクローロ高畑に隣接している駅だ。
ホテルにチェックインして辺りを散策したいところだったが、生憎の雨模様かつ昼間よりも雨脚が強まっていたこともあり、こちらの脚も休ませて寛ぐことに。
このJR高畠駅にはホテルの他に太陽館という名の温泉施設も隣接しているため、気温も低いこともあり湯に浸かって温まることにした。
泉質はトロッとしたアルカリ性単純温泉で、源泉の温度は30.1℃だが、湯船の温度は43.0℃とのこと。
確かに入湯を試みると明確に熱さが感じられるもので、ゆっくりと身体を沈み込ませた後に筋肉を解す。
それでも長くは入っていられないので、そこそこの時間で2回程湯に入った後に退場。
汗を流してからは、駅に併設されている売店でお弁当を購入して18時迄には夕食を済ませ、軽くストレッチをした後に21時頃に就寝した。
起床は4時半過ぎ。
そのまま5時頃迄はベッド上で身体を伸ばし、身体を起こしてカーテンの向こう側を見る。
空は既に明るくなり掛けており路面は濡れたままであるものの、雨は降っていないようだった。
湿度は90%以上と高いが気温は10℃を少し超える辺りで走り易い。
このまま天気が保ってくれれば幸いだ。
ベッドから出て、ストレッチや筋肉に刺激を入れる軽めのトレーニングを行う。
その後、6時頃迄に朝食(主にカステラ)を済ませて7時前にはホテルをチェックアウト、会場となる東根市の陸上自衛隊・神町駐屯地へと出発した。
距離にしておおよそ60km、1時間程度の道程となる。
道中は所により小雨が降ったり止んだりという天気。
東根市に入ってもそれは変わらなかったが、駐車場の入口付近に着く頃にはどうにか降雨も治まり、時々薄雲の向こう側に太陽の丸い形が確認できる時もあった。
昨年よりも2,000人以上、約10,000人弱のエントリーがあったため駐車場は入口前から渋滞が発生していたが、15分程のタイムロスで済み無事に西B駐車場へ駐車。
車を後にして大会会場へと足を進めた。
駐車場から15分程、長く緩やかに登る直線道路を東へ歩き、神町駐屯地の西側ゲートを過ぎるとスタート地点のアーチが見えてくる。
時刻は8時30分を過ぎようとしていたため、既に多くのランナー達が集まっていた。
ただ、整列するブロックについてはAブロックが申告タイム1時間10分以内、Bブロックが同1時間20分以内。
そのため待機している選手も割合と疎らで側道から入り込み易く、またBブロックを示すプラカードの直ぐ前が空いていたこともあり、その最前列に位置取ることにした。
Aブロックにも何人か選手が居たが、序盤は彼らに付いて行くことは難しそうだ。
まずはBブロックのランナーのペースを目安に考えていくことにしようか。
スタートに向けて着々と司会が進行。
ゲストの瀬古利彦氏や野口みずき氏が場を盛り上げ、金哲彦氏がコースの攻略を伝授、大会会長の挨拶が終わるといよいよスタートも間近に。
その折に金さんもゲストランナーとしてBブロック最前列に整列されたので、久々にご挨拶をさせてもらった。
お陰様で(スタート前にご挨拶し、激励頂いたこともあり)昨年の軽井沢ハーフマラソンでは入賞できたことをご報告し、今回のレースのついても少しお話を。
その際にコースについてのアドヴァイスも頂いたので、プラン通りに(前半の上りで使い切らないように)行った方が良いことを再確認できた。
その後、ピストルが鳴らないためスタート時刻が少し後ろ倒しになるという軽めのトラブルが発生し、数分後に2度目のスタートへ。
カウントダウンが始まると、賑やかだった4,300人を超える長蛇の列が、特に前方を中心に静かになっていった。
パーン!!
重く湿った空気を突き破るように、軽やかで乾いた銃声が天に向けて放たれる。
その音に呼応して1つ前の列の選手達が一斉に駆け出した。
スタートから1kmプラスアルファは長い直線の緩やかな下り坂のため、ペースもかなり速いようだ。
まずは落ち着いて集団から抜け出し、AブロックとBブロックの前方集団との間で単独走を試みる。
最初の1kmは3分10秒位が目安だろう。
シーズン最終戦のため蓄積している疲労は結構なものだとは思うが、直前の1週間で或る程度は抜いてはこられている(と思っている)ので、序盤の2、3kmなら恐らく速いペースでも押して行ける。
少しの時間が過ぎて快調に飛ばしていると、後ろから1人のランナーがスーっと横を抜けて行く。
スタート前に周囲を見渡していた時に見た、同じカテゴリー(40歳代)の選手だ。
確かビブナンバーは28004。
となると、自分の次に申告タイムが速かった(と思われる)選手である。
スピード感を見ているとかなりのもので、付いて行けなくはないが序盤からこの水準のスピードで走りたくはないところもある。
まずは様子見とし、視界から逃さない程度に先行を許すことにしよう。
この辺りで最初の1kmを通過。
ラップタイムは3:09/kmだった。
おおよそ想定通りだが、ここから先は少し落とすことにしようか。
前半、上りが終わる10km過ぎ迄は、平均3:30/km程度で行ければ御の字だ。
目の前に神町小学校が見えて来ると、2km地点ももう直ぐそこだ。
この頃、後ろから恐らく1人と思われる息遣いが聞こえてきたかと思うと、そのまま踊るように前に出た。
中々躍動感のあるフォームで、外国人(欧米系)の若いランナーだった。
中々に良いペースだ。
1kmを超えてこのペースで前を追っているのならば、自分が太刀打ちできるレベルではない可能性がある。
彼にはそのまま先行していただこう。
と思い、このように少しだけ後ろに付いて考えた後に再びペースを戻した。
2km地点を通過する。
ラップタイムは3:17/km。
下り基調でもあったのでこんなところだろう。
順調に来ている。
ここから先は2km程ほぼ平坦な区間を挟み、4km地点辺りから10km地点過ぎ迄の6km強は緩やかに上りに続けるコースとなる。
平坦になったためか、ペースも段々と落ち着いてきた。
ここで後ろからヒタヒタと足音が聞こえて来たかと思うと、1人の比較的若めと思しきランナーが、自分より少し速いペースで横を抜けて行った。
さてどうするか。
彼の力を借りて、先行した28004の彼を追うか、このまま先行していただくか。
その中間もありである。
つまり、まず少しの間後ろに付いてみてから判断するというものだ。
今のペースも無理ではないし、これで行こう。
そう決めると地面を蹴る力を少しだけ強くして、スピードを上げた。
3km地点を通過。
この1kmのラップタイムは3:26/km。
少し上り傾斜もある中では、やや速めと言えるか。
このまま前に居る彼の背中を眺め続けるのも悪くはないかもしれないが、金さんからの情報を考えると前半は抑え気味に行きたい。
更に序盤の長い直線の下りがラストは上りになって返ってくることを考慮すると、終盤での余力も少しは確保しておく必要もある。
ここは少し落とすとしよう。
28004の彼については、時間を掛けて少しずつ詰めていければ良い。
コースは村山野川を超える橋に差し掛かり、上りの区間へと入って行く。
4kmの通過ラップは3:28/kmだった。
良いペースで走り続けられている。
橋を渡って右へと曲がり、そのまま直線を真っ直ぐに進むと5km地点へと至る。
沿道に駆け付けてくれた沢山の子供達からの声援が、前への推進力を更に高めてくれているのは間違いないだろう。
やはり子供からの声は力になる。
そのため、時折左手を挙げて応えながら進む。
この1kmは3:30。
28004の彼との差も段々と詰まってきていた。
これはあと2km位あれば並べそうだ。
中々面白くなってきた。
そのまま直線の終わりとなるT字路を左に折れて6km地点を通過。
ラップタイムは3:34/kmだったが、この区間は傾斜がややあったため許容範囲内だ。
視界の先には、このコース唯一の折返し地点が確認された。
今回もあれで行くかと心に決める。
この頃には前を行く選手との差も、10m有るか無いか迄詰まっていた。
その彼が行った後、例の如く【鶴谷ターン】でUターンをして続き、先程左折したT字路(進行方向で見るとト字路となるが)を直進する。
コースは再び村山野川を渡るが、その頃には前の彼の背中は直ぐ前に迫っていた。
7km地点を通過し、この1kmは3:28という好ペース。
ここ迄の数キロのペース差を考慮すると、ここはこのまま押し切ってしまうのが得策かもしれない。
そう判断してギアを切り替え、橋の終わりの短い下り区間を用いて一時的にスピードを上げて前に出た。
さてどうするか。
前方にももう1人選手が見えてきたこともあり、このまま少し速めペースで押すか、一旦休むか。
休むならば上り終わってからが良いだろう。
まだ余裕は有るし、本格的かつ継続した上りになったらペースをやや落として調整すれば良い。
との判断の元で快調に飛ばしていると、後ろに聞こえていた足音も段々と離れて行った。
走路は緩やかに左に折れて、8km地点へと差し掛かる。
この1kmは3:24。
2km強の長い上りが始まった。
コースは県道296号線へと合流する。
前方奥には雄大な山々を望み、そこへ向けてひたすらに真っ直ぐな道路が伸びて行く。
このレース2人目のターゲットとなる長身の選手の背中はというと、先程はかなり遠くに見えていたように思えるが、ややペースを落としている割には近付いてきていた。
この調子なら10km地点迄にパスできる可能性もある。
しかしながら追い抜くためにスピードを上げるのも、この区間では考えものだ。
ここは安定したペースを刻んで進もう。
街中から離れた山村では沿道の人影も疎らだったが、時折聞こえる声援に背中を押して頂きながら9km地点を通過する。
この1kmは3:37。
3:40掛からなければOKだ。
このまま行こう。
9kmのポイントから200-300m程で先行する選手に追い付き、並ぶことなく前へ出る。
一旦休むのもありだがそれは平地での話。
上り区間でスピードに差があるならば、落とさないで上り切ってしまう方が良い。
ここから先は恐らく、追われたり抜かされるのではなく、前を走る選手をいかに拾って順位を上げていけるかになるだろう。
いつもどおりの展開である。
ただ今回は序盤に速く入ったので、ここから抜けるとしても1人、2人が良いところだろう。
現時点では恐らく総合で10番手位。
この順位は少なくともキープしておきたい。
僅かなカーブを左に折れると10kmを通過する。
この1kmも3:37。
そこそこ疲れてはきているものの、良い感じだ。
県道298号線との交差点が10kmと11kmのおおよそ中間地点となるのだが、ここを右に折れると下りの区間に入ってくる。
この後左に曲がってから暫くは下りの直線道路、14km手前からは来た道を戻るコースであることもあり、ラスト1.5km強を除くとほぼ下り一辺倒だ。
ここでギアを切り替えてスピードを上げ、力強く地面を蹴って前へと進む。
11km地点手前に給水ポイントがあったため、スタッフの応援にも励まされて更にペースが上がった気がした。
水などは貰わなかったが、声援という名の後押しを頂戴する感じだ。
11kmを通過。
ラップタイムは3:29/km。
ここからは1km平均で3分20秒台前半を目処に行きたいところだ。
交差点を右折して県道298号線に別れを告げると、コースは長い直線の下り区間へと入る。
その先は右に舵を切り14km地点手前で往路に合流、そこから先は6km手前の折り返しの部分を除き、スタート地点へとひたすら戻る流れだ。
多少上りで乱れた呼吸を落ち着かせながら、かといって落とす勢いは最低限として、12km地点、13km地点を通過していく。
ラップタイムは3:19/km、3:18/km。
安定して走れているし、やや遠くだがまた前を走る選手も見えてきた。
暫くしたら追い付けるかもしれない。
少なくともターゲットにするには良さそうだ。
13km地点を過ぎて細い道を真っ直ぐに進むと、コースは来た道(8km地点から9km地点の間)へと合流する。
その地点迄の短い区間、下りからほぼ平坦になるため上りを走るような体感になるのだが、これを落ち着いて対応してやり過ごし、T字路を左折して再び往路と同じ道路へと足を踏み入れた。
ここ迄来ると道が広がり前方の視界も開け、心無しか前の選手の背中が大きくなってきているように思えた。
程なくして14km地点へと至る。
この1kmは3:28掛かったが、許容範囲内だ。
ここから再び下り基調なので、スピードを上げて行こう。
緩やかに右に曲がり、15km地点付近で給水を手に取る。
直近ではロング走は15km迄しか実施していなかったため、結構キツくなってきたというのもあるのだが、下り区間なので単純に呼吸の観点から水が飲み易いというところもあった。
とはいうものの、この1kmのラップは3:22/kmに再び上げてきているため、楽にという訳にもいかない。
そのため、タイミングを合わせて少しだけ水を口にする。
きっとこの1杯がラストの上りに効いてくるだろう。
村山野川を三度渡って左折し、県道304号線に別れを告げると、工業地帯を横切る大通りへとコースは伸びていく。
残り5km、16km地点ももう直ぐだ。
この辺りに来ると沿道からの声援のボリュームが再び大きくなってくるのだが、その中でも一際明るく一生懸命に応援してくれるのが子供達だった。
何度目になるか分からないが左手を挙げて応えると、更に大きな声で背中を押してくれたので、今度は左手を真上に突き上げると歓声が上がった。
『ありがとう! 君達、最高だよ!!』
そんな風に心でお礼をして突き上げた拳を開いた後に戻し、再び肩を旋回させるために腕を振る。
16km地点を通過し、前との差もまた少し詰まってきた。
この1kmは3:24。
出来は上々、まだ行ける。
いつも通りに後半しっかり攻めて行こう。
日本エア・リキードの山形営業所を左手に交差点を左折し、四度目の村山野川渡りを試みる。
こちらから見ると下りになるためスピードも出易かった。
この辺りから10kmレースで復路を走るランナー達と合流するのだが、ターゲットとなる選手の背中は見逃さない。
一点集中といったところだ。
神町中学校手前で17km地点を通過したことを、手首から聞こえる機械音に教えられてラップタイムを確認。
この1kmは3:22と、下り基調のためスピードに乗れている。
T字路を右に舵を取り神町中学校に別れを告げると、コースは直ぐに交差点を左に折れて県道296号線に合流、間も無く18km地点を迎える。
ラップタイムは3:20。
良い形で粘れている。
前を走る選手も、残りの距離を考えると射程圏内と言えそうだ。
ここはラスト勝負を想定し、一気に行くのは自重しておこう。
ここから19km地点付近に在る神町小学校迄は長い直線。
いよいよ下りも終わり、上りに差し掛かってくる区間だ。
神町小学校前に差し掛かると、また沢山の子供達が沿道に駆け付け、一際大きな声援を送ってくれていた。
その中には「タッチしてくださーい!」と声を出す女の子達の姿もあった。
『なるほど、ここでハイタッチをすることで(厳密にはミドル位の高さだろうけれども)、彼女達の応援に応えることもできるのだな。』
などと考え、小学校の角を左に曲がる時にインサイドへ行くため、ここで何人かの生徒達の左手に勢い良く左手で連続にタッチする。
後方から聞こえてきた「ありがとうございまーす!!」という元気な声に口角を上げると、エネルギーを貰ったためか上りながらも少しだけスピードを上げて前を追う。
『こちらこそありがとう! 君達も最高だよ!!』
気が付けば19km地点を通過していた。
ラップタイムは3:25/kmだった。
コースは神町小学校をぐるりと回るようにして、陸上自衛隊・神町駐屯地の西側ゲートへと向かうラストの長い上りの直線へと至る。
この辺り迄来ると、前方に見えていたブラックのシャツを着たランナーも、あと数メートルのところまで迫っていた。
スピードもこちらの方が上だ。
スタート直後にこの坂を走った時に、これはラストにもスタミナを残しておかないと不味いなと思ったため少々プランを変更しのだが、正解だったようだ。
多少は落ちても、まだスピードは維持できる。
そんな中、間も無く彼の横に付く。
明らかに疲れが見える息遣いだった。
ここは休まずに自分のペースで行ってしまおうと判断し、そのまま通過して前方へ目を向ける。
10kmのランナーも居るため誰がハーフを走る選手かは分からないが、抜けるランナーは全て抜いてしまえば良いだろう。
20km地点を通過する。
この1kmは3:30。
思いの外落ちていないし、これはもしかすると好タイムも期待できるかもしれない。
ここ迄トータルのタイムは気にしていなく、シーズン最終戦のため力を出し切り、尚且つ部門3位以内に入ることを優先して考えていたので、少し驚きもあった。
もはや(というか振り返ったことがないため元よりなのだが)後ろを気にすることもなく、視界も脳内も前方のみを意識して走る。
余力は残していたとはいえ、それはここで出し切るためのものであったため、20km過ぎともなるとかなり呼吸も荒くはなってきていた。
ただ、頭の中は至って冷静である。
そのまま坂を登ってゲートを抜けた後、僅かに右にカーブする部分があるのだが、ここに公式の時計が在った。
10kmとハーフと両方の時計があったが、ハーフの方の時間を見ると1時間10分を過ぎたあたり。
『これは72分台、いけるんじゃないか?』
変わらず続く傾斜に奪われ続けていたスタミナを、最後まで搾り出すように手脚を動かし前へと進む。
1人、2人と落ちてきたランナーを拾うが、10kmなのかハーフなのかは後ろからは見分けが付かないため、もはや順位は上がっているのかは分からない。
ただ、少なくとも下がることはないため、前へ出ることが正解だ。
やがて右手首のcoros pace3から21km地点を通過したことを知らされ、チラッと視線を落としてラップタイムを確認する。
3:35/kmだった。
再び視線を前に向けると、ゴールはもう見えるところに。
ゲート右下の時計をチェックする。
1時間12分を少し過ぎたところだ。
『まさかの最終戦でPBとは。(笑)』
そのまま両腕を肩の高さ位まで上げて拳を突き上げ、今シーズンも走り切ったという充実感とともにゴールラインを通過した。(サングラスの下は、一応笑っている)

記録は1:12:29。
順位は40歳代男子部門で優勝、男子総合でも9位に入ることができた。
レースが終わった後は、1時間程の時を経て11時からハーフマラソンの表彰式。
その待機時間中、風は穏やかながら時折やや強くなることもあったので、普段は立ち入ることのできない自衛隊施設内の売店や食堂などを見学した。
コンビニ(ローソン)も在るという充実振りには少し驚いたが、国防を任されている方々のための施設であれば、寧ろ不自由無く整っていることが当然なのかもしれない。
食堂にも惹かれはしたが、ハーフマラソンのレース後ということで現時点では空腹感はない。
そのためここは外から見るに留めた後、式の開始時間も近くなってきたため表彰台横のテントへと向かった。
テント内は未だ人が疎らだったが、程無くして各部門の優勝者が集合。
表彰台にて大会会長である東根市長より表彰状と金メダル、そして副賞のさくらんぼを授与頂いた。
こちらが表彰状とメダル。(この後、宿泊地で撮影)

副賞は東根市が全国に誇るさくらんぼ、佐藤錦である。

開封してみよう。

内容量は500gとのことだ。
十分に楽しめるだろう。
最後に、表彰台付近で記念撮影を。

いつもの【スピリット・チェイサー】ポーズで締めることに。
この後は男子総合優勝の大澤選手へのインタビューを背中で聞きつつ、会場を後にした。
さて、山形県から自宅の在る南関東への距離は長い。
疲労もあることを考慮して一気に帰宅はせず、中間点に程近い栃木県の那須高原近辺で1泊して帰る行程としている。
とはいうものの、そこ迄の距離も200km強を有する。
そのため、軽めの昼食を挟んだ後にまずは1時間程車を走らせて再び高畑町へ立ち寄り、休憩がてらに高畑ワイナリーを訪れることにした。
実に6年振りの訪問だ。
今でこそアルコール類は友人と会う時位にしか口にしないが、以前はワインが好きで関東甲信を中心に東日本のワイナリーを訪れていた頃があり、その時期に来たことがある。
ワイナリーに到着する頃には、曇り所により雨であった空は、時折晴れ間を見せてくれるようにもなっていた。

久々に、高畑バリック ピノ・ノワールの2022年ヴィンテージを購入。
そう遠くないうちに都合を付けて、友人と開けてみたいと思う。
身体を伸ばした後は再びハンドルを握り2時間程のドライブ。
日曜日ではあったが高速道路は順調に進み、夕方頃に到着したのは会員制のリゾートホテル・グランドエクシブ那須白河だ。
ゴルフには特に興味は無いのだが、勤務している会社の保養所に指定されているため、蓼科や山中湖の同施設にはよく訪れている。
そのため今回は通過点という立地を考慮し、初となる那須白河に宿泊してみることにした。
ちなみにハーフマラソン後であまり食欲が無いこともあり、こちらでの夕食は見送りに。
部屋に入りカーテンを開けて外を眺めると、空は薄明の頃合いだった。
部屋から眺める施設の風景も美しい。

調度品も気品があり、広々としたインテリアはレースで疲れた身体を休めるのに丁度良い。

足を伸ばして寛いでいると、時刻は19時を回り辺りも外も闇に包まれ始める。
そういえば服を着替えはしたものの、未だ汗を流していなかったことを忘れていた。
温泉に入ることにしよう。
大浴場に入る選択肢も有ったが、チェックインの際にスパ(大浴場と同様に温泉)の無料券を頂いていたため、今回はそちらを使用してみることに。
翌日が平日ということもあってか、こちらの温泉は貸切だった。
部屋に戻った後はストレッチ等で軽く身体を解して就寝。
長かった1日は終わりを迎えた。
翌朝、施設前の庭園を散策。
丁寧に植えられた鉢植えの花々の向こうには、残雪の那須連山を望むことができた。

気持ちの良い朝だ。
散歩の後はレストランでビュッフェ形式の朝食を取ることに。
こちらの名物(?)である那須白河バーガー等を楽しんだ後、9時過ぎにチェックアウトをして自宅への帰路の就いた。
最後に、施設外観の写真を1枚掲載しておこう。

クラシカルでラグジュアリーな内装に見合うだけの秀麗な外観。
また近くを訪れた際にはお世話になりたいと思う。
さて、先月の青森県に引き続き2ヶ月連続の遠征となったが、どちらも部門優勝を勝ち取ることができた。
内容こそ違えど、その時点で持てる力を注ぎ込み、冷静に状態や状況を見極めつつ走り結果を出せたことは嬉しく思う。
また、3月(山梨県南アルプス市の桃源郷マラソン)、5月のレースに続いて、3レース連続で部門優勝者として表彰台に上がることができたところは感慨深いものがある。
昨年よりも更にステップアップできた、充実したシーズンだったと言えるだろう。
次である25-26シーズン最初のレースは(心の)故郷・長野県で開催される、信州駒ヶ根ハーフマラソンを予定している。
信州のランナー達はレベルが(個人的な感覚では他と比べて)一段高いこと、またシーズン緒戦であることを踏まえ、まずは入賞を念頭に、可能であれば部門3位以内で駆け抜けたいと考えている。
最後に、家族を始め今回も応援してくれた全ての人に感謝し、筆を擱きたいと思う。
ありがとうございました。